インタビュー一覧

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著者インタビュー


『貧血日本 - 預金の1割で、惚れた会社の株を買え!』

杉本光生氏

新刊紹介

二〇〇八年の秋以降、「百年に一度の不況」が世間を大いに騒がせた。時間の経過とともに株式市場は少しずつ持ち直しているものの、世界的金融危機のショックはいまだ色濃く影を落としている。この状況下で、「預金の1割で株を買おう」と提唱しているのが、個人投資家向け投資情報サイト「株なび」を運営しているインベスター・ネットワークス代表取締役社長の杉本光生氏だ。その真意とはなにか。詳しく話を伺った。


百年に一度の不況はまた来る。頑強な経済と資本市場をつくるべし

まず、率直にお伺いします。世界的金融危機のショックがいまだ消えない中で株式投資を勧める本を書かれたのはなぜなのでしょうか。

杉本氏(以下、杉本) 確かに、「もっと株式市場が好況の時に出せばいいのに」と忠告してくれる人もいました。本の構想を練り始めた二〇〇九年の二月末は現在より深刻な状況で、日経平均が七千円を割るのではないかと懸念されていた頃でしたから。ですが、「今だからこそ意味がある」と私は考えていました。
世界経済が総崩れの様相を呈した〇八年の秋以降、「百年に一度」の不況という言葉が一種の免罪符のように、あちこちでよく使われていたと思います。会社の業績が悪いのも、内定取り消しも、消費の落ち込みも、なにしろ百年に一度の不況なのだから仕方がない、というわけです。
しかし、本当に仕方なかったのでしょうか。投資銀行がむちゃな商売をしたせいだとか、環境の変化に対応しようとしなかったアメリカの自動車産業が傲慢だったのだとか、他人事のように批評するのは簡単だし、誰も傷つきません。しかし、私には、日本企業や我われ日本人一人一人に省みるべき点がまったくなかったとは、どうしても思えないのです。

「百年に一度のことだから」と免罪符を振りかざし、状況がよくなるのを待っているだけではダメだということですね?

杉本 はい。今、世界経済は、そのスピードやダイナミズムの点で、これまで人類が経験してきたどの時代とも比べものにならないほどに変化しています。好・不況はくるくると局面を変え、振り幅も増大しているのです。そういう意味では、百年に一度の不況が、次にまたやって来るのは百年後ではなく、五〇年後かもしれないし、十年後かもしれません。
こうした状況の中で日本が行なわなければならないのは、責任逃れをすることでもなければ、諦めることでもありません。どんな強風や大雨にも耐えられなる頑強な経済をつくり、たとえ世界中の金融市場が混乱しようとも、一時的にはともかく、本質的な価値は失われない資本市場をつくることなのです。

そのためには、我われが株を買うことが必要だと?

杉本 そうです、ある程度のリスクを負って企業を応援する個人投資家が必要なのです。そしてそれは、企業や日本経済のみならず、普通の会社員が心置きなく仕事に取り組み、安心して子どもを育てて、余裕のある老後を迎えるためにも不可欠なことだと思います。
リスクというと、危険や損失といった言葉が思い浮かびますが、リスクという言葉がもつ本来の意味は「不確実性」です。つまり、あらかじめ結果が約束されていない代わりに、アップサイドに振れる可能性もあるということですから、無闇に恐れる必要はありません。


優良な安定株主となれるのはもはや個人投資家だけ

投資家ではなく「個人投資家」と強調されるのにはなにか理由があるのでしょうか。

杉本 株式持ち合いの解消が進み、一九九〇年代後半から日本市場を席巻していた外国人機関投資家の持ち株比率も、二〇〇八年夏の二八%をピークに二三%まで下がってきました。国際会計基準の導入により、銀行が事業会社の株式保有を制限する動きも高まっています。
事業会社同士の持ち合いは増えていますが、保有株式が値下がりして資産価値が目減りすることのリスクは、基本的には銀行と変わりありません。なぜ他社の株式を保有しているのか、そのメリットを株主にきちんと説明できなければ、売却するよう圧力がかかることもあるでしょう。つまり、自社の状況と関係なく、保有する側の事情で、いつ、どんな理由で売られるかわからないのです。
これに対して個人投資家には決算期もないし、圧力をかけてくるメインバンクも株主もいません。投資価値があると判断している限りは長く保有してくれるありがたい存在なのです。もちろん現金が必要になって株式を売ることはあるものの、そのタイミングは各人各様で、デイトレーダーを除けば、集中して売られる(買われる)ことはありません。これほど心強い安定株主がほかにいるでしょうか。

なるほど、優良株主というわけですね。

杉本 グローバル化が進んでいる、ある優良企業A社では、外国人投資家、国内の機関投資家、そして個人投資家の株式保有比率を、バランスよく分割することを目指しています。サブプライムローン問題の時のように、外国人投資家が売る局面では日本の機関投資家が買うし、国内の機関投資家が買えない時は、個人投資家が買って株価の下支えになるからです。個人株主の比率を引き上げるため、A社では個人投資家向けのIRに力を入れています。
しかし、A社のような先進企業は例外で、これまで主にアナリストや機関投資家を相手にしてきたために、個人に対してどのような情報を、どんなやり方で提供すればいいのか具体的な方法がわからずに頭を悩ませているIR担当者は依然として少なくありません。B to BからB to Cの世界に領域が広がったことで、戸惑っているのです。

個人投資家に正面から向き合おうと努力している企業が増えている一方で、その存在を軽視している企業も依然としてありますからね。

杉本 そうですね。私が会社を起こした最大の理由は、本当の意味でのインベスター・リレーションズが日本にはまだまだ足りないと考えたからです。それならば自分が、IRコンサルタントの経験を生かして、発行体企業と個人株主をつなぐ懸け橋になろう ―― そう考えて、私は会社を設立しました。私が起業した五年前と比べて状況は少しずつ変わってきていますが、企業間のばらつきは大きいですね。


預金の1割で株を買って貧血状態の日本を救え

しかし、実際には多くの人にとって、株式投資はまだ身近なものにはなっていないですよね。

杉本 そうなんです。最近では、「自分らしさ」や「個性」という言葉が、世代を超えて好んで使われていますよね。ところが、みんなが個性を追い求めているはずの日本で、資産運用だけは一〇年一日どころか三〇年一日のごとく変わらずに、画一的であり続けているのです。
基本は銀行預金か郵便貯金で、あとは投資信託が少し。たまに株式にも手を出してみるものの、思いつきで投資するせいか、どうも思うような結果が出ない。あるいは株価が上がったら上がったで、すぐに売ってしまうので、本当の意味での資産形成にはつながっていかない。
金融資産に関する各種の統計や調査からは、そんな一般的な国民の資産運用に対する姿勢が浮かび上がってきます。

資金運用にも個性が必要だということですか。

杉本 と言っても、目新しい方法を次々に試してみるということではもちろんありません。流行に飛びついたり、誰かの真似をしたりするだけではなく、ファッションや暮らし方と同様に、投資や資産形成にも「自分らしさ」という物差しをもってみるということです。
大切なのは一円でも多く貯めることでも、儲けることでもありません。消費や投資、貯蓄を通じて、お金に、自分の主張や考えを代弁させて、その上できっちりとリターンを確保することなのです。私には私にふさわしい、あなたにはあなたにふさわしい、お金との付き合い方があります。

では、個人投資家が株を買うと、どのように日本の将来は改善されていくのでしょうか。

杉本 まず、株式を発行する企業が直接の影響を受けます。今、日本の企業の多くは貧血状態にあるのではないでしょうか。脳を働かせて、身体を動かすための血液となる資金が十分に行き渡らずに、研究開発や市場への新商品の投入が思うようにできていないのです。
しかし、株式市場を通じて必要な資金が調達できれば、貧血は解消されます。それにより、企業が設備投資を行ない、人を雇用すれば、冷え込んでいる消費も回復し、日本経済全体が良い方向に回転し始めます。企業業績が潤えば、企業からの税収も増え、したがって個人の税負担が減ります。つまり、日本で仕事をして日本で暮らす我われ個人が、その恩恵を受けることになるのです。

そうやって国を変えていくだけの力が個人投資家にはあるということですね。

杉本 はい、お金には、個人の人生を変える力があると同時に、その使い方や運用方法によって、国の経済や将来を変える力があるのです。今、日本には一千四一〇兆円の個人金融資産があります。これは国家予算の約五倍に相当する額です。内訳を見ると、半分以上を現預金が占めていて、二位の保険・年金が三割弱、三位の株式は八七兆円で全体の六%にすぎません。
例えば、現預金のうちの一割が株式市場に振り向けられたとしましょう。新たに市場に投入される資金は約八〇兆円。これまでの資産と合わせると一六七兆円となり、現在の二倍近い資産を個人は株式でもつことになります。外国人投資家が保有する日本株資産は一一〇兆円以上(二〇〇七年度平均)といわれていますから、これを大きく超えることができるのです。
一人一人の額は大きなものでなくても、銀行に預けている預金のたった一割を株式投資に振り向けるだけで、日本と自分自身の未来を変えられます。この本を読んで、お金との付き合い方や投資に対する考え方を見直すきっかけとしてもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。

杉本光生(すぎもと・みつお)

同志社大学商学部卒。株式会社リクルートコスモス、株式会社インテリジェンスを経て、IRコンサルティング会社に入社し、その後、株式会社ストラテジック・アイアールの経営に参画。2001年合併による新会社ジー・アイアールコーポレーション株式会社取締役に就任。
2004年10月、インベスター・ネットワークス株式会社を設立し代表取締役社長に就任。15年に及ぶIRコンサルティングの経験を活かし、効率的なIR活動の実現を目指して、IRナビゲーションシステムを考案・プロデュース。一方で、個人投資家と機関投資家との間にある投資情報格差を是正すべく、個人投資家向け投資情報サイト「株なび」を考案し、国内上場企業に対して、戦略的個人投資家向けIRを提唱。日本インベスター・リレーションズ協議会メンバー。
著書に、『インターネットIR戦略入門』(共著/東洋経済新報社)、『新規公開・上場のためのIRコミュニケーション戦略マニュアル』(共著/中央経済社)がある。

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