インタビュー一覧

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著者インタビュー


『手綱、繋がる思い』

株式会社ダイヤモンド・ビジネス企画 編集部 岸のぞみ 氏

新刊紹介

作業療法の一つ、アニマルセラピーの一種として近年注目を集めているホースセラピー。
中でも、特に障がい者乗馬に注目し、その効果と魅力、業界が抱えるさまざまな課題について言及した書籍『手綱、繋がる想い』(ダイヤモンド・ビジネス企画・編)が発売された。制作には障害者のための馬事普及協会「ピルエット」、株式会社LSIメディエンス全面協力のもと、レッスン生一人ひとりの生の声を拾い上げ、身体的・精神的な障がいのある人々が、いかにしてホースセラピーと出会い、その魅力に引き込まれ、そしてその効果を実感したのかがドキュメンタリー形式で描かれている。
本書の見どころと書籍に懸ける想いについて、編者であるダイヤモンド・ビジネス企画編集部・岸のぞみ氏に話を伺った。


まずは本書出版に至った経緯について教えてください。

岸のぞみ(以下、岸) ホースセラピーというそれまでまったく知らなかった素晴らしい世界を知るにあたり、その魅力に一気に引き込まれていきました。ホースセラピーに目に見えるほどの大きな効果があることを驚く一方で、ホースセラピー施設の運営者・インストラクターたち、そして業界全体が抱えているさまざまな課題があることが取材の中で明らかになりました。本書ではその光と影、両方の側面について多くの方々に知っていただくことが急務であると考え、今回の出版に至りました。

本書に登場するホースセラピーについて、他のアニマルセラピーとの違いを踏まえて教えてください。

 犬や猫を対象としたアニマルセラピーとは大きく異なります。それはホースセラピーが「動物を愛でる」ことに重きを置くのではなく、「馬に乗る」という行為をメインとしているためです。「馬に乗る」ためには、皆さんが想像する以上に全身の筋力と高度なバランス感覚を必要とします。また、巨大な動物にその身を預けるという行為は、それ自体が肌を通して直接その動物とうまくコミュニケーションを図り、信頼関係を構築しなければならないということを意味しています。また、馬はよく対象者を観察する動物です。もちろん自分が乗せたくない人間、言うことを聞かなくてもよいのだと判断した人間を大人しく乗せることはありません。このように、より双方向的で直接的なコミュニケーションを学ぶことができるのです。

障がい者乗馬の特徴について教えて下さい。

 障がい者乗馬は、全体の指揮監督をするインストラクターの他に、馬の両側にサイドウォーカーと呼ばれる介助者や、馬の手綱を曳くリーダーと呼ばれる人たちが必要となります。
障がいのある人とその家族がお互いの正しい関係性について学ぶという意味で、障がい者乗馬は非常に大きな効果を発揮します。
障がいのある人の家族は過介助になりがちです。インストラクターたちは「馬場の外で見守っていてください」、「サイドウォーカーとして介助してください」と家族に声掛けし、家族やその周囲にも、「必要なこと」「必要でないこと」、そして「手を貸さない」という信頼関係の在り方など、さまざまな側面を教えていきます。

このようなセラピーを扱う書籍には珍しく、レッスン生のエピソードだけに焦点を絞らない構成になっています。

 ホースセラピーをご存じないすべての方々に、よりわかりやすくホースセラピーを取り巻く世界をお伝えしたいと考え、序章では乗馬大会の一日を追いながら、ホースセラピーの楽しさや喜びを表現しました。第一章では個別具体的な事例について、ドキュメンタリー形式で紹介し、実際のレッスンやその効果、どんな人たちがどんな想いでレッスンに通うのかを知ってもらいたいと考えています。第二章ではレッスン生を支えるインストラクターやボランティアたちの想いを、第三章ではホースセラピーそのものの歴史から日本におけるホースセラピーについて、少し制度的な側面も踏まえ、業界全体について理解していただく手掛かりとなればと思っています。第四章ではその科学的な裏付けを、終章ではホースセラピーが抱える課題について整理しました。

本書で紹介されている具体的なレッスン生のエピソードについて教えてください。

 脳性まひで足や腕に障がいのある人たち、あるいはファッションを楽しみたいと考える若い女性、あるいは発達障がいのある子ども、そして後天的に半身不随になってしまった四十代の男性など、年齢や状況もさまざまな事例を大きく四つに分類し、全九例を紹介しました。

レッスン生たちを支えるインストラクターや施設運営者たちについて教えてください。

 本書では障がい者のための馬事普及協会ピルエットをはじめ、多くの関係団体の皆様にご協力いただき、実際のレッスンや施設運営について、またインストラクターやそれを支えるボランティアの人々の努力とひたむきな想いについて取材をさせていただきました。特にメインで取材をさせていただいたピルエットのインストラクターの方々については、休日にも馬やレッスン、そして生徒たちのことを考える大変な勉強家です。その真摯な想いに感銘を受けるとともに、日本におけるホースセラピー普及という本書に託された使命の重さを感じました。
また、ホースセラピー施設を運営していく上で、ただの慈善事業で終わらせてはいけない、ビジネスとして確立させていく重要性も強く感じるようになったのです。

第四章ではそれぞれの専門家の方々にお話を伺うという構成にした意図について教えてください。

 単純に、「馬に乗ったら少し癒やされた」とか、あるいは「ちょっと元気になった」という理解で終わらせたくありませんでした。乗馬による運動刺激によって身体まひの子どもたちが少しずつ歩けるようになり、発達障がいの人が旅行に行けるようになったという、大きな治療的効果を発揮していることは明らかです。現状ではエビデンスと呼べるだけの数字が集まっていないことを非常に残念に思うのですが、それぞれの専門家の方々がその効果を認めているという点を強調しておきたいと考えました。

具体的にはどのようなお話について触れられているのですか。

 東京大学名誉教授・局博一先生をはじめ、作業療法士である石井孝弘先生には作業療法の中におけるホースセラピーの効果を、帯広畜産大学の柏村文郎先生には馬学の視点から馬の魅力を、東京農業大学の川嶋舟先生にはアニマルセラピーの専門家として他のアニマルセラピーとの違いをお伺いしました。また、株式会社LSIメディエンスの入沢芳久氏、高田真人氏からは歩行分析計『見守りゲイト』を使った乗馬前後での歩き方の違いを数値で示していただき、科学的な裏付けとさせていただきました。

終章ではホースセラピーを取り巻くさまざまな課題について触れられています。

 エビデンス確立もまたホースセラピーが抱える大きな課題の一つですが、その他にも業界を挙げて解決していかなければならない課題があります。まずは、全国の施設数の問題。一時期に比べて増えてきたとはいえ、未だホースセラピーをしっかりと実施している施設は限られています。ホースセラピーに興味をもっていただいても、近くに施設がないためにそれを試すことができないのはとても悲しいことです。
施設ごとのレベル差の問題もあります。全国的なマニュアルや日本オリジナルの教科書、あるいは全国統一のインストラクター資格というものが存在しないために、そのレベルには大きな開きがあります。
また、日本においてホースセラピーは保険が適用されないため、レッスン料も嵩みます。より多くの方に体験してもらうには、行政との連携も不可欠となってくるでしょう。

最後に一言、メッセージをお願いいたします。

 今回の取材では、実際の障がい者乗馬大会やそのレッスンを取材させていただく中で、両手両足にまひの残る子どもたちが、あるいは目の見えない全盲の方が、本当に見事に馬に乗っている姿を目にし、感銘を受けました。
ホースセラピーの効果は驚くべきものがあり、そしてその一方で、それが事実を超えて過大に報道されることへの危険性も知ることができました。
本書制作を通して、ホースセラピーに対する「正しい」理解を広めていくことが業界の抱えるさまざまな課題を解決する第一歩であるのだと知ることができたのです。
本書が少しでもホースセラピー普及とその正しい理解に役立てることができれば幸いです。

ありがとうございました。

株式会社ダイヤモンド・ビジネス企画(だいやもんど・びじねすきかく)

1960年、ダイヤモンド社に設立された『ダイヤモンド・セールス』編集部が1972年に分社化、
株式会社ダイヤモンド・セールス編集企画として設立。
2005年にソフトブレーン株式会社(東証1部上場)が資本参加し、ダイヤモンド社との合弁企業となる。
名称をダイヤモンド・ビジネス企画に変更。
2006年、月刊『ダイヤモンド・セールスマネジャー』を『ダイヤモンド・ビジョナリー』と改題。
その後メールマガジンへと媒体変更を行なう。
現在は、経営、マーケティング、営業など、幅広いビジネス領域の出版事業を展開している。
ダイヤモンド・ビジネス企画の編・著書として、『絆の翼 チームだから強い、ANAのスゴさの秘密』、『日本の営業2011 営業は知恵と情熱の格闘技! 』、『AED街角の奇跡 「勇気」が救った命の物語』、『復活を使命にした経営者』、『陸に上がった日立造船』、『ワンカップ大関は、なぜ、トップを走り続けることができるのか?』などがある。


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