――まずは出版の経緯について教えてください。
北村精男氏(以下、北村) 「材料」も「工法」も日進月歩で進歩し、今まで見えなかった部分も、わからなかったものも可視化が進んでいます。また、強大な自然の猛威を「権威」や「組織」で食い止めたり、収めたりすることはできません。
東日本大震災の発生以来、熊本地震など多くの災害が相次ぐ今こそ、これまでの古い慣習をすべて捨て去り、新しいプラットフォームに立って未来を設計しなくてはなりません。「科学に則った分析」と「原理原則」に従って、まったく新しい考え方のもと、今の時代の最先端の素材、最新のテクノロジーを駆使して、国民の期待に応えられる構造物を提供しなくてはならないのです。
私のこのような思いを、無公害杭圧入機「サイレントパイラー」の開発を中心とする当社の歴史とさまざまな取り組みを通じて伝え、建設業界の現状と当面の課題、将来的な「あるべき姿」について、読者の皆さんが改めて考えるきっかけとなればと思い、本を書くことを決意しました。
――「工法革命」とは具体的にどのようなものでしょう。
北村 建設工法を科学で精査し、より合理的で新奇性、発明性に富む新工法を導入することです。
従来の防波堤や防潮堤は、土砂を積み上げて富士山型に整形しその表面をコンクリートで被覆した構造が一般的です。また地盤を掘削し、逆T字型のコンクリート基礎を造りその重量で災害に立ち向かう「フーチング構造」と呼ばれている構造があります。しかし、いずれの構造も、その場所に置いてあるか、載せているだけで、地震や津波の威力には何の抵抗力もありません。
一方、当社が開発している「インプラント構造」は、原理的にまったく異なる構造です。インプラントとは「深く埋め込む、植え付ける」といった意味があり、歯科医師の行うインプラント手術は、失われた歯の代わりに、人工の歯根を顎の骨に埋め込むもので、インプラントで埋め込まれた義歯は、自前の歯とほとんど遜色のない強度があります。当社の開発したインプラント構造もこれと同じで、強固な地盤の奥深くまで杭材を圧入し、固定します。先ほど述べた「フーチング構造」と比べて、外力に耐える強度はこちらが圧倒的に勝ります。
――「サイレントパイラー」(圧入機)開発のきっかけになったものは何でしょう。
北村 昭和40年代、当社の稼ぎ頭だったのが、バイブロハンマーを使った杭打ち工事でした。杭打ち工事とは、建設・土木工事に欠かせない基礎工事の一つで、ディーゼルエンジンの動力で杭の頭を叩いて打ち込むディーゼルハンマーと、杭を摑んで振動させながら地中に打ち込んでいくバイブロハンマーが主流でした。
しかし、こうした建機を用いた杭打ち工事は、いずれもすさまじい振動、激しい騒音を伴い、文字通り公害の元凶となっていきました。うるさくて眠れない。赤ん坊が泣く。家が揺れる。ドアが開かなくなる。壁にひびが入る。屋根瓦がずれる……そんな苦情が相次いだのです。
杭打ち工事は欠くべからざるものでしたが、いわば必要悪として、辛うじて存在を認められているような格好だったのです。「このままではいけない」と私は思いました。
そこで振動も騒音も出さない杭打機を作りたいと思ったのです。
――最後に一言、メッセージをお願いいたします。
北村 当社が本拠を置く高知県は、いにしえより台風や地震などの自然災害に常にみまわれ、打ちのめされてはまた起き上がるということを繰り返しながら災害と闘い、共存してきた土地柄です。災害に立ち向かう姿勢は筆者にも会社にも脈々と流れています。
そのDNAが、世界に先駆けて「圧入原理の優位性」を駆使した無公害杭打機を生み出し、防災技術のスペシャリストとして数々の新しい工法を確立させたのだと、私は確信しています。
技研という会社が皆さんから理解され、我われがめざすこの国の将来像のイメージを共有することができれば、これに勝る喜びはありません。
ありがとうございました。
北村精男(きたむら・あきお)
高知県香南市赤岡町生まれ。高校卒業後、高知市の建設機械レンタルと機械施工会社に8年勤める。1967(昭和42)年に株式会社技研製作所の前身となる高知技研コンサルタントを創業。社会問題となっていた建設公害を解決すべく圧入原理に着想し、1975(昭和50)年に無公害杭打ち機「サイレントパイラー」(圧入機)を発明。社是は『仕事に銘を打て』。全国圧入協会(JPA)、国際圧入学会(IPA)を創設し、一般社団法人高知県発明協会会長や一般社団法人高知県工業会会長などの公職を歴任。2002(平成14)年に紫綬褒章、2011(平成23)年には旭日小綬章(発明功労)を受章。