――『Startup CEO』に出会ったきっかけを教えてください。
杉江陸氏(以下、杉江) 私がPaidyに入社し、創業者のラッセル・カマーと共同経営を始めたのは2017年11月なのですが、その約4ヶ月前、Paidyのアーリー・ステージからの投資家で取締役でもあるメリッサ・グジーに会った際に、今後ラッセルと二人で歩むにあたっての道しるべとしてこの本を薦められました。その後、ラッセルも、彼女から同じ本を薦められていたことがわかりました。以来、ラッセルと私にとって経営をする上での「バイブル」となっています。また、時にはメリッサから特定のアジェンダでプッシュバックを受けた際にも活用します。先日も取締役会の構成について意見が食い違った際にこの本に立ち返って議論しましたよ。
――著者のマット・ブランバーグ氏は、どのような人物ですか。
杉江 私自身実際にお会いしたことはないのですが、原文から彼のチャレンジ精神が溢れ出ています。2019年にReturn Path社を売却した後も、新たな事業を立ち上げています。いくつになっても、どんなに裕福になっても、歩みを止めず「もっと前へ」と新たな困難に向けてまた違った挑戦に向けて踏み出す彼を、心から尊敬しています。コロナが落ち着いた際には、ぜひ現地に行ってお会いしてみたいですね。
――本書はアメリカの読者を対象としているので、一部日本の法制度や事業環境に合っていない記述も見受けられます。その点については、どのようにお考えですか。
杉江 本書の本文の中にも、日本市場は大変に特殊で進出が難しいと書かれていますね。そこでビジネスをする日本人にとっては、まさに自分のやり方や常識、偏見を客観的に見つめ直す良い機会になるのではないでしょうか。アメリカの常識が世界の常識だとも思いませんが、少なくとも世界中からタレントを集めて成功している国の一つとして学ぶものがとても多いのは間違いありません。本書をきっかけとして、「日本」、「業界ムラ」、「男性社会」などからの学び直しのために外国語でのコミュニケーションにもチャレンジしていただけるようでしたらとても嬉しいですね。
――日本特有のスタートアップ・ボードへのススメを教えてください。
杉江 兎にも角にも、違う背景を持つメンバーを集めるべきです。
出身業界は勿論、特に話す言葉や出身地・友人関係などは、距離があればあるほど多くの学びが得られるのではないでしょうか。世界の投資家の物の見方、海外の技術・業界動向、トップリーダーとのコネクション、他社事例、事業提携先の紹介、人材紹介などなど、自分たちではなし得ないレベルの情報収集とそれによる目線の引き上げに繋がって行くこと請け合いですよ。
――最後に読者へのメッセージをお願いいたします。
杉江 本書の帯に「計画的失敗とそこから這い上がる力こそが必要」と書かせていただきました。このメッセージはスタートアップの皆さんだけに向けたものではなく、全ての日本人にお伝えしたいことです。スタートアップという小さいがゆえにわかりやすい場を理解と学びの一助にしていただき、ひいては自分が所属する組織の問題点について考える機会にして頂ければ嬉しいです。そして勿論、小さなスケールながら超高速の成長を求められるチームに強い関心を持ったなら、読後にぜひスタートアップの門を叩いてみてください。
Matt Blumberg
VC、経営コンサルティング会社でコンサルタント、事業会社でのデジタル・マーケティング責任者を経て1999年にReturn Path社を創業、大きな成功に導く。卒業したプリンストン大学のコミッティへの参画、コロラド州の新型コロナ対策ワークフォースのリード、地域リトルリーグのサポートなど活動は多岐にわたる。そしてシリコンバレー拠点のベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者であるベン・ホロウィッツや、ツイッターの元CEOであるディック・コストロなどに尊敬される経営者。
杉江 陸(株式会社Paidy代表取締役社長兼CEO)
1971年生まれ。東京大学教養学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行ファイナンシャルグループ)入行。その後コロンビア大学MBA並びに金融工学修士を取得しアクセンチュアを経て2006年GEコンシューマー・ファイナンス入社。同社が新生銀行グループ傘下となり2009年に新生ファイナンシャルへ社名変更。2012年に同社代表取締役社長兼CEOに就任。2016年からは新生銀行常務も兼任。2017年11月からPaidy代表取締役社長兼CEO。