――昨今、よく耳にする「カーボンニュートラル」という言葉ですが、わかるようでわかりづらいです。今一度、ご説明いただけませんでしょうか?
今村啓志相談役(以下、今村) 「カーボンニュートラル」とは、CO2をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、地球上の森林、海洋などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味します。「カーボン」とは、炭素のことで、CO2の「C」に相当します。「ニュートラル」とは、中立、中間という意味となります。
私たちは、日々の産業活動や生活で、おびただしい量の温室効果ガスを排出しています。国立環境研究所のデータによると、日本の温室効果ガスの総排出量はここ数年、年間12億t前後(CO2換算)で推移しています。
仮に、半径5mの球体をした巨大な風船があるとしましょう。この風船の中に入っているCO2の体積が、ちょうど1tに相当します(気温0℃、1気圧の場合)。つまり私たち日本人は、半径5mの風船12億個分のCO2 を、毎年排出しているというわけなのです。
――「カーボンニュートラル」という意識は、いつごろから話題になり始めたのでしょうか?
今村 高度経済成長期、経済の効率性や開発が優先され、地球環境について顧みられることはあまりありませんでした。ところが21世紀に入り、国際連合をはじめとした国際機関は、人類の生存と持続可能な開発のために、様々な規制や条約で「カーボンニュートラル」について声高に叫ぶようになっていったのです。
この「カーボンニュートラル」という崇高な理想を、世界共通の目標にまで昇華させたのが、2015年に締結された「パリ協定」でした。2020年度以降の気候変動に関する国際的な枠組みのことです。
パリ協定では、次のような長期ビジョンが掲げられています。
・世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2℃より十分低く保ち、1・5℃に抑える努力をする
・そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
というものです。
――そんな中で、貴社が取り組んでこられた事例について教えてください。
今村 カンケンテクノを創業して間もなく、中国の工場に有害なガスを無害化する装置を設置する事業に取り組みました。当時、取引先の松下電子工業(松下電工)が中国でテレビの工場を建設するのに伴い、弊社の浄化装置が採用されることになったのです。
当時の中国は政情が不安定で、日本と比べると経済も立ち遅れていました。工場建設にしても土地はタダ同然で、ましてや環境に対する意識は希薄でした。それでも、松下電工はあえて日本と同様の環境基準を守って工場を建てることとし、私たちにお声がかかったのです。
パリ協定以前の枠組みについては、発展途上国には温室効果ガスの排出削減義務は課せられていませんでした。そこで、パリ協定では、発展途上国を含むすべての参加国と地域に2020年以降の「温室効果ガス削減・抑制目標」を定めることにしたわけです。
――最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
今村 カンケンテクノの歩んできた道、そしてこれから進む道を語る上で、「カーボンニュートラル」や「地球温暖化」は外すことができないキーワードです。本書は、その入り口として、カーボンニュートラルの意味や地球温暖化のメカニズムを私なりに解説しています。環境保全に向けた国際的潮流を踏まえた上で、排ガス除害装置の企業である当社の役割や課せられた使命について考えて頂ければと思います。私の経験や思いを一冊の書籍にまとめることで、50年後、100年後の地球を考える助けになれば、これに勝る喜びはありません。
今村啓志(いまむら・ひろし)
カンケンテクノ株式会社 相談役。
1936年、山口県生まれ。山口県立山口高等学校卒、1960年、大阪府立大学工学部を卒業後、工業炉メーカーに入社し、環境設備の設計や製造など大気処理事業に従事。大気処理の経験を生かし日本一厳しい大気環境基準に対応できる設備を開発するため、1978年に関西研熱工業(現・カンケンテクノ)を起業。産業界で排出される有害ガスや温室効果ガスの浄化、無害化装置の開発、社業発展に尽力。国内の他に海外では7拠点を展開。