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スポーツビジネス成長論

スポーツビジネス成長論

株式会社日本政策投資銀行

2025.8.18

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世界的に見ても、相応の市場規模を誇る日本のプロスポーツ産業。1964年の東京オリンピックから発展を続け、2021年に再び東京で開催された大会では歴代最高の金メダル獲得数を記録した。しかしビジネスの側面から考えれば、欧米に大きく差を付けられているのが実情である。とりわけプロスポーツリーグでの収益力の差は顕著で、野球の大谷翔平やサッカーの三笘薫など、今や主要な日本人スター選手の活躍場所は海外プロリーグだ。なぜ日本のスポーツ産業はビジネスとしての成長が鈍いのだろうか。 本書の責任編著者である株式会社日本政策投資銀行の宮川暁世氏(産業調査部長兼備投資研究所担当部長兼副所長)に話を聞いた。海外との歴史や事例の比較、調査と分析で「スポーツ産業界の資金循環」の可視化を図る、画期的な業界分析を紹介している。

――日本のプロスポーツ産業の概況について、ビジネスの側面から教えてください。
宮川暁世氏(以下、宮川) 日本のスポーツ産業は1964年に開催された東京オリンピックを起点にしても60年以上の長い歴史を持っていますが、ビジネスの側面から捉えると欧米に大きく差をつけられているのが実情です。株式会社日本政策投資銀行(以下、「DBJ」)でとりまとめた21年時点での日本のスポーツGDPは約9.5兆円で、全産業のGDPに占める割合が約1.7%でした。ところがイギリスの政府機関である文化・メディア・スポーツ省(DCMS)がまとめたところによると、同年のイギリスにおけるスポーツGVAは536億ポンド(約8.3兆円)で、全産業に占める割合は約2.6%となります。つまり全産業に占めるスポーツ産業の市場規模の割合を比較すると約1.5倍の差がついている状況なのです。また本書で詳しく紹介していますが、プロリーグ・クラブの収益力を日本と欧米で比較してもその差は顕著です。国内プロリーグに所属する選手が海外のプロリーグへ高額な年俸で移籍するケースも、最近では珍しいことではなくなりました。
 
――今後の日本のスポーツビジネスが成長していく上で必要になる考え方や、要素とはどのようなことなのでしょうか。
宮川 収益化を促進し、成長の好循環を生んでいくことです。そのためにはスポーツ産業に資金がどのように流れるのか、その構造を正確に把握する必要があります。私たちは本書において国内外のスポーツ産業の資金循環を可視化し、それぞれの特徴を分析しました。そうすると、日本のプロスポーツ産業には資金の“目詰まり”が起こっていることがわかります。日本のプロスポーツのリーグ・クラブは国内企業からのスポンサーシップ中心で、かつ業種に偏りも見られます。放映権の権利の分散や人材不足を要因としたコンテンツホルダー側の交渉力の不足、有力選手の海外流出に見られるコンテンツ自体の魅力の不足なども、資金が潤沢に流入してこない理由となっています。
では何をしていけば成長につながるのでしょうか。プロスポーツリーグ・クラブの発展には収入の源泉となる「ファン」を軸に置いた施策を立てることが重要なのですが、私たちは国内外の調査や分析に基づき、本書においてその仮説を立てました。①コンテンツの魅力を創出して集客力を高め、ファンベースを拡大させ成長資金を確保すること②成長投資を成功させる能力をもつビジネス人材を確保すること③ライブエンターテイメントとしての魅力を高め観戦体験の価値を向上させ、リーグやクラブの利益の増加を図ること④さらなる成長投資を図って新規ファンベースを獲得すること、この4つのサイクルを循環させることで業界の発展がなされると考えます。そのためには資金やインフラの充実が必要で、私たちは本書において、国内外から有効と思われる事例を豊富に紹介するように努めました。
 
――最後に、読者の皆さまにメッセージをお願いいたします。
宮川 私たちは「日本のスポーツ産業は新たな黄金時代の入り口に立っている」という認識でいます。それは、単に日本人アスリートが優れた競技成績を残す時代ということではありません。日本のスポーツには文化として深く根付き、人々を繋ぎ、地域を活性化させ、そして世界を魅了する一大成長産業として花開く大きな可能性があります。それが、日本のスポーツ産業の持続的発展や収益化に必要な要素の研究を進めてきた私たちDBJの結論です。そしてこの未来を創る主役は、リーグやクラブ、企業や行政だけではありません。本書を手に取ってくださった、読者の皆さまご自身なのです。スタジアムに足を運び、声を枯らして応援することも、地域のスポーツ活動に参加することも、あるいはスポーツを起点とした新たなビジネスのアイデアを語り合うことも、すべてが未来への確かな一歩となります。本書の読書体験が、そういったエンゲージメントの一助となれば幸いです。


宮川 暁世(みやかわ あきよ)
株式会社日本政策投資銀行 産業調査部長 兼備投資研究所担当部長 兼副所長
1974年神奈川県生まれ。1997年東京大学法学部卒業、日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)入行。ロンドン駐在、情報システム企画、財務部門、女性起業家支援等を経験後、2021年シンジケーション・クレジット業務部長、2023年地域調査部長を経て2025年6月より現職。最新の産業動向調査・発信から、観光・スポーツなどのコンテンツを活用した地方創生の取り組み支援など幅広く取り組んでいる。交通政策審議会観光分科会臨時委員等の公職にも多数就任している。
 
株式会社日本政策投資銀行
「金融力で未来をデザインします」を企業理念に掲げ、中立的かつ長期的視点にたち、投融資一体型のシームレスな金融サービスを提供している。また、地域課題解決や地域活性化・地域創生に向けて、国や地方公共団体、民間事業者、地域金融機関などと連携・協働しつつ、各種調査・情報発信・提言やプロジェクトメイキング支援などに幅広く取り組んでいる。
 
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