――貴書が対象とする読者と、また狙いについて教えてください。
渡邉篤史氏(以下、渡邉) 会社の部門長・管理職・管理職の手前の層、また仕事で何らかのタスクやプロジェクトに責任を持たされたマネジャー層やリーダーに向け、関係者を巻き込みながら成果を創出するための巻き込み力を、体系的に解説するために執筆いたしました。
――巻き込み力というテーマは、どのように生まれたのでしょうか。
渡邉 あるクライアントから「社員がお客さまの共感を得てビジネスを動かす力が弱い」と相談を受けたことがきっかけでした。当初、その方は対人コミュニケーションに課題があるのではないかと考えていましたが、一緒に検討を進めるうちに、問題の本質はそこだけではないのではないかと私自身思うようになりました。
相手企業を巻き込んだ共同事業や、社内の他部署と連携したものづくり・マーケティングなどを実施することは珍しくありません。そう考えると、働きかける対象は人に限らず、取引先やパートナー企業、社内組織など、より広い単位に及びます。すると巻き込みとは対人コミュニケーションのスキルではなく、むしろマネジメントそのものではないかという結論に至りました。
この視点をクライアントに共有したところ強い共感があり、そこから私の巻き込み力強化プログラムの枠組みが生まれました。巻き込み力を上げるということは、組織のミッションを成功に導くための考え方であり、実践の手法です。本書では、その内容を具体的な事例を通してお伝えしています。
――その貴書の内容について、概要を簡単にご紹介いただけますでしょうか。
渡邉 本書は全5章で構成しています。第1章では、巻き込み力の概要を解説しています。そして組織のミッションを成功させるために必要な計画立案、行動目標の設定、行動中の問題への対処、観察と状況判断といったプロセスを、PDCAサイクルに沿って整理しています。
第2章から第4章は事例編になります。第2章では部下や上司との関係を扱う「タテの巻き込み」を、第3章では価値観や優先順位の異なる部署との連携を図る「ヨコの巻き込み」を、さらに第4章では社外パートナーとの協業を進める「ソトの巻き込み」を、全部で21の事例をもとに具体的に示しています。
第5章では事例を踏まえたまとめとして、あらためて巻き込みの方法と勘所を、理論的に語り直します。巻き込み力を発揮するうえで重要となる「自分のバイアスを知ること」「対話を重ねること」を軸に、リーダーが成果を生み出すための本質的な視点を提示しています。
――巻き込み力について、具体的な事例を一つ紹介してください。
渡邉 ある営業職のチームリーダーから相談を受けました。組織体制の変更により担当する取引先が増え、社内でも密な連携が必要になったことで、メンバーが進捗の見えない負のサイクルに陥り、心身の不調から休職者が続出してしまったというのです。
リーダーからは「新しいことを始めるときのメンタルの保ち方」について相談を受けましたが、私は業務の達成感を覚えやすくするよう工夫することを提案しました。仕事の進捗を段階的に見える化し、「第1段階」「第2段階」とマイルストーンを設定することで、頑張った成果を実感しやすくなります。リーダー自身も仕事の全体像が把握しやすいように業務を7工程へと整理し、各工程の標準行動と成果指標を定義しました。その結果個々の進捗が把握しやすくなり、相互サポートも生まれ、チームワークが向上しました。
相談内容はメンタル面についてでしたが、その解決策はマイルストーンによる業務の見える化というマネジメント施策にありました。「目標をどうすればみんなで達成できるか」という問いを立て、手立てを共有することで、組織の健全化につながった事例です。
――最後に読者の皆様に、メッセージをお願いします。
渡邉 本書で提示した巻き込み力とは、ただの「人を動かす力」ではありません。他者とどう関係を築くか、そして自分の思いや価値観をどう社会と接続していくかという「生き方」の力でもあるのだと思います。仕事が人と人との関わり合いのなかで進んでいくものである以上、最後に問われるのは「人間関係の質」であり、「人の思い」にどう向き合うかが、組織の未来を左右するのではないかと思います。企業の判断がスピードやアグレッシブさを求められる時代だからこそ、「人」という資源の力を、もっと丁寧に見つめ直す必要があるのではないでしょうか。本書の執筆にあたっては、そんな思いも込めています。